大阪地方裁判所 平成7年(ワ)4134号 判決 1996年11月26日
甲乙両事件原告
ニチハン株式会社破産管財人
中川泰夫
右訴訟代理人弁護士
石井教文
甲乙両事件被告
住金物産株式会社
右代表者代表取締役
下村佳節
右訴訟代理人弁護士
朝沼晃
同
片岡勝
右片岡勝訴訟復代理人弁護士
岸本寛成
主文
(甲事件)
一 被告は、原告に対し、金四二二九万一三六八円及びこれに対する平成六年一二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
(乙事件)
一 被告は、原告に対し、金八一〇万六八一九円及びこれに対する平成七年五月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
(甲乙両事件の訴訟費用)
訴訟費用は、甲乙両事件を通じこれを七分し、その六を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
(甲事件)
一 原告
1 被告は、原告に対し、金六二九二万二五〇七円及びこれに対する平成六年一二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行の宣言。
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
(乙事件)
一 原告
1 被告は、原告に対し、金八七八万九九三二円及びこれに対する平成七年五月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行の宣言。
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 当事者の主張
(甲事件)
一 請求原因
1 原告は、平成六年七月一三日午前一〇時に大阪地方裁判所において破産宣告決定を受けたニチハン株式会社(以下「破産会社」という)の破産管財人である(平成六年フ第一六七九号)。
破産会社は、平成六年一月二七日大阪地方裁判所に対して和議手続開始の申立(平成六年(コ)第三号)をすると共に弁済禁止の保全処分の申立をし、同月二八日弁済禁止の保全処分決定(平成六年モ第二五〇二三号)を受けたが、同年七月六日、右和議手続開始の申立を取り下げて、同月八日破産の申立をし、前記のとおりに破産宣告決定を受けた。
2 ところで、このように、和議手続から破産手続に移行した場合には、和議法一〇条の類推適用により、前記和議手続開始の申立を破産の申立とみなすべきであり、したがって、破産会社は平成六年一月二七日に破産の申立をしたものとなる。
また、破産会社は右保全処分決定を受けたことにより平成六年一月二八日に支払いの停止をしたこととなる。
3 破産会社は被告に対し、平成六年二月一四日満期の額面合計金四三二四万七六八五円の約束手形金債務を負担していたが、この債務の支払のために同年三月三〇日別紙約束手形目録(1)記載の各約束手形を、同四月三〇日別紙約束手形目録(2)記載の各約束手形を(以下それぞれ「(1)、(2)の手形」という。)それぞれ裏書譲渡した。本件手形は、すべてその満期日に決済された。
4 破産会社の本件手形の各約束手形の裏書譲渡による債務消滅行為の時期は前記のとおり、破産会社の本件破産の申立後であり、また、支払の停止後とみなされる。
5 破産会社の右行為は破産法七二条二号に該当するので、原告はこれを否認する。
よって、原告は被告に対し、右裏書譲渡手形の各額面合計相当金二〇〇三万一三一六円の返還を求める。
6(一) 破産会社は、平成六年三月八日、被告との間で、被告が譲渡担保に取得した別紙倉庫の目録一記載の倉庫に存した商品(以下「本件商品」という。)の換価に関して、次のとおり合意した(以下「二社協定」という。)。
(1) 破産会社は、被告が破産会社に対して有する債権の一部または全部の回収のために本件商品を売却することを承諾し、これに協力する。
(2) 破産会社は従前の販売先に対し本件商品を被告名義で売却してその代金を被告のために回収する。
(3) 破産会社は本件商品売却のために被告の指示に従って次の業務(以下「本件業務」という)をなす。
① 販売先との事前商談、返品、クレームに関する折衝
② 販売先の注文に基づく商品のセッティングと納品の代行
③ 代金回収の代行
④ その他被告が必要と認めた行為
(4) 被告は本件業務の対価として本件商品代金回収実現額の三五パーセント相当額を支払う(4項①)。
(二)(1) 右合意に基づき、破産会社が本件商品の売却に努めたことにより、平成六年六月三〇日現在において、本件商品売却代金回収実現額は金九六〇六万一七五三円であった。
これの三五パーセント相当額は金三三六二万一六一三円である。
(2) ところで、破産会社の従事すべき業務は販売代行業務と代金回収代行業務に分かれるところ、その回収代金額に対する貢献割合は販売代行業務が8.5に対し回収代行業務のそれは1.5である。
そして、これら販売代金の回収時期は販売後約一か月先である。
破産会社の資料によれば、本協定成立後平成六年六月末までにおける売上実績(販売高)は、金一億二七二二万円であった。前記のとおり、平成六年六月末時点における入金額は金九六〇六万一七五三円であるから、この差額の金三一一五万八二四七円は、破産会社の販売代行業務により販売できたが、前記時点において未だ回収していなかったものであって、後日、被告がこれを回収しているはずのものである。
したがって、破産会社は、右差額金についても、右業務の貢献割合に応じた手数料を取得できるはずである。
右販売代行業務の貢献割合は前記のとおりであるから、破産会社の取得できる手数料は、右差額金に、破産会社の受領すべき手数料割合0.35を乗じ、更に販売代行業務の貢献割合0.85を乗じて得られる金九二六万九五七八円である。
(三) よって破産会社は、被告に対し、右(1)、(2)の手数料合計金四二八九万一一九一円の支払請求権がある。
7 よって、原告は被告に対し、前記5、6の金員の合計金六二九二万二五〇七円及びこれに対する甲事件訴状送達の日の翌日である平成六年一二月二八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1は認める。
2 同2は否認する。
和議法九条の目的、趣旨から、同条を原告主張の事案にまで拡張解釈して和議法一〇条を類推適用することは許されない。右のとおり、和議と破産の制度目的は相違するから、和議の申立が開始決定前に取り下げられた場合には、右申立がなかったことになるにすぎず、右申立を破産の申立とすることはできない。
また和議法に基づく弁済禁止の保全処分は、その制度趣旨からみて支払停止と解することはできない。
3 同3は認める。
4 同4は否認する。
5 同5は否認する。
被告は、破産会社の業務継続のための二社協定に基づき、(1)、(2)の手形を別除権の被担保債権の一部弁済として受領し、その支払を受けたのであるから、和議債権者らを害する行為に当たらないし、被告には右詐害の意思がなかった。
また、二社協定合意の当時、整理委員であった中川泰夫は、右二社協定の弁済合意につき同意していた。
したがって、原告は、被告の右弁済受領を否認できない。
6 同6(一)は認める。
同(二)は認める。但し、同項記載の回収実現額の三五パーセントが破産会社の本件業務の対価ではない。
二社協定5項①、②には、本件商品の倉庫保管料、出庫荷役料等を優先的に回収実現額から差し引く旨、又、同4項②には、破産会社の業務遂行のための商品納入運賃一切の費用は破産会社の負担とし、同社は業務の対価の中から賄う旨それぞれ定められている。
したがって、まず、入金総額九六〇六万一七五三円から5項の倉庫料等三七一四万五九〇一円を控除した五八九一万五八五二円に0.35を乗じて得られる対価の原資二〇六二万〇五四八円より、更に4項の破産会社の負担すべき運賃一一三六万一五六二円を控除して得られる九二五万八九八六円が本件業務の対価である。
同(三)は否認する。
三 予備的抗弁
1(一) 二社協定の8項③には、破産会社に破産宣告の申立があった場合に、破産会社に対する手数料の未払がある場合には、被告は、破産会社に対する債権の一部と対当額で相殺し、破産会社は、これを異議なく承諾する旨定められている(以下「二社協定の相殺合意」という。)。
(二) したがって、仮に破産会社に原告主張の手数料債権、及び(1)、(2)の手形金返還債権があるとしても、被告は、平成七年三月八日の本件口頭弁論期日において、別紙約束手形目録(3)記載の約束手形債権をもって、右手数料債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした(以下右手形を「(3)の手形」といい、右相殺を「一次的相殺」という。)。
2(一)(1) 被告は、商社として従来より、破産会社がインドネシア及びタイの家具メーカーに注文した藤製及び皮製の応接セット等の家具を輸入するについて、その輸入代行取引を継続的に行っていたが、破産会社の和議申立後、平成六年三月八日、①別除権者である被告と破産会社間の譲渡担保商品販売に関する協定(二社協定)、②被告、訴外株式会社阿波銀行及び同株式会社イエコと破産会社間の譲渡担保商品販売に関する協定(以下「四社協定」という。)を締結し、同時に被告と破産会社間で輸入商品販売に関する協定(以下「輸入協定」という。)を締結した。
(2) 被告は、輸入協定に基づき、総額約一億一〇〇〇万円の商品を輸入し、その後更に破産会社から懇請されて新規に二五四五万〇六〇〇円のL/Cを開設し、新たに一五三八万八九七九円相当の商品を輸入した。
(3)① 輸入協定に基づく取引は、破産会社が回収実現額から被告に対して一定額(当初仕切価額の一〇五パーセント)を支払えば、その余は破産会社の負担において運賃、倉庫料等の経費を支払い、それらを差し引いた残額が破産会社の実質的取り分になる旨の内容であった。
② ところが、破産会社は右協定に基づく販売活動を平成六年六月末に突然停止し、自己の義務を放棄したまま同年七月六日、和議申立を取下げて自己破産の申立をした。
③ この結果、輸入協定に基づく同年六月末日までの破産会社の回収実現額は一八〇〇万〇一五〇円なのに対し、その間被告が立替えた運賃、倉庫料は別紙立替金の内訳表記載のとおり、金一九三六万四三七九円に達しており、回収実現額から計算上出てくる破産会社の取り分(回収実現額−当初仕切価額の一〇五%)金三三八万七六九三円を控除しても、被告は、破産会社に対し、一五九七万六六八六円の立替金返還請求債権を有している。
(二) 右(一)の立替金返還請求債権は、破産宣告前の原因に基づき発生した債権であるから、二次的に、平成八年七月二日の本件口頭弁論期日において、右立替金返還請求債権をもって、本訴手数料債権及び(1)、(2)の手形金返金請求債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした(以下「二次的相殺」といい、一次的相殺と併せて「甲事件相殺」という。)。
四 抗弁に対する答弁
1 抗弁1は認める。但し、相殺の効果は争う。
2 抗弁2(一)(1)は認める。同2(一)(2)、(3)は否認する。同(二)は認める。但し、相殺の効果は争う。
五 再抗弁
1 二社協定の相殺合意及び本件相殺の意思表示は破産法一〇四条二号に該当し許されない。
すなわち、被告が一次的相殺に供する(3)の手形債権は、破産債権であり、その受働債権である破産会社の手数料債権及び(1)、(2)の手形金返還請求債権は、いずれも和議法一〇条の類推適用により破産申立とみなされる、平成六年一月二七日の和議申立の時点以降に被告が負担した債務であり、他方被告の破産会社に対する(3)の手形金債権は、本破産宣告前に取得したものである。
そして、二社協定の相殺合意は、危機的状況下においてなされたものであるから、破産法一〇四条が適用されて相殺が許されない。
したがって、本件相殺は、破産法一〇四条二号に該当し許されない。
2 被告主張の立替払金債権は、その実、本件商品の処分代金により回収不能の損害賠償債権と解されるから、破産債権に当たり、したがって右1と同様本訴債権との相殺が禁止されることが明らかである。
六 再抗弁に対する答弁
いずれも否認する。
(乙事件)
一1(一) 甲事件請求原因1に同じ。
(二) 被告は、各種商品の販売を目的とする商社である。
2 破産会社は、平成六年三月八日被告、訴外株式会社イエコ(以下「イエコ」という。)及び訴外株式会社阿波銀行(以下「阿波銀行」という。以下この三者をまとめて「担保債権者ら」という。)との間で、担保権者らが各々譲渡担保権を設定した別紙倉庫の目録二記載の倉庫に存した商品(以下「本件乙商品」という。)の換価に関して、次のとおり合意した(以下「四社協定という。)。
(一) 破産会社は、担保権者らが本件乙商品を売却することを認める。
(二) 破産会社は、被告の名義で本件乙商品を売却して、その代金の回収にあたる。
(三) 破産会社は本件乙商品売却のために被告の指示に従って次の業務(以下「本件乙業務」という。)をなす。
① 販売先との事前商談、返品、クレームに関する折衝
② 販売先の注文に基づく商品のセッティングと納品の代行
③ 代金回収の代行
④ その他被告が必要と認めた行為
(四) 担保権者らは、破産会社に対して本業務の対価として本件商品代金回収実現額の三五パーセント相当額を支払う。
その負担割合は被告と阿波銀行が各二八パーセントで、イエコが四四パーセントとする(4項①)。
(五) 被告は前記回収実現額の一〇パーセント相当額を担保権者らの左記配分とは別に優先して取得する(5)。
被告及び阿波銀行 各二八パーセント
イエコ 四四パーセント
(六) 破産会社が破産したときは、担保権者らはそれぞれ破産会社に対する債権と前記手数料支払い債務とを相殺することができる。
3 右合意に基づき、破産会社が本件商品の売却等に努めたことにより、前記破産宣告時までに回収した本件商品売却代金額は金八九六九万三一八四円であった。
そこで破産会社の取得できる手数料の総額は金三一三九万二六一四円となり、被告とイエコの負担すべき額は左記のとおりとなる。
被告 金八七八万九九三二円
イエコ 金一三八一万二七五〇円
4 よって、原告は、被告に対し、手数料金八七八万九九三二円及びこれに対する乙事件訴状送達の日の翌日である平成七年五月一一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1は認める。
2 同2は認める。
3 同3は否認する。
三 抗弁
1 四社協定10項③には、破産会社に破産宣告の申立があった場合に、破産会社に対する手数料の未払がある場合には、被告は、破産会社に対する債権の一部と対当額で相殺し、破産会社は、これを異議なく承諾する旨定められている。
2 したがって、仮に破産会社に原告主張の手数料債権があるとしても、被告は、平成七年六月七日の本件口頭弁論期日において、(3)の手形債権をもって、右手数料債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした(以下右相殺を「乙事件相殺」という。)。
四 抗弁に対する答弁
抗弁1、2は認める。但し、相殺の効果は争う。
五 再抗弁
四社協定の相殺合意及び乙事件相殺の意思表示は破産法一〇四条二号に該当し許されない。
すなわち、被告が乙事件相殺に供する(3)の手形債権は、破産債権であり、その受働債権である破産会社の手数料債権は、和議法一〇条の類推適用により破産申立とみなされる、平成六年一月二七日の和議申立の時点以降に被告が負担した債務であり、他方被告の破産会社に対する(3)の手形金債権は、本破産宣告前に取得したものである。
そして、四社協定の相殺合意は、危機的状況下においてなされたものであるから、破産法一〇四条が適用され無効である。
したがって、本件相殺は、破産法一〇四条二号に該当し許されない。
六 再抗弁に対する答弁
否認する。
七 証拠
本件記録に添付してある書証目録、証人目録記載のとおりである。
理由
一 甲、乙両事件の手数料について
1 甲事件
二社協定の締結、二社協定4項①には、被告は本件業務の対価として本件商品代金回収実現額の三五パーセント相当額を支払う旨(請求原因6(一))、同5項①、②には、本件商品の倉庫保管料、出庫荷役料等を優先的に回収実現額から差し引く旨、又、同4項②には、破産会社の業務遂行のための商品納入運賃一切の費用は破産会社の負担とし、同社は業務の対価の中から賄う旨それぞれ定められていることは当事者間に争いがなく、右事実に、4項①後段には、回収実現額とは、各締切日までに被告の本支店に入金のあった額をいう旨の定めがあること(甲一)並びに、二社協定の締結に当たり、被告作成の当初の草案には5項①、②の倉庫保管料、出庫荷役料等が4項②内の、商品納入運賃等に引き続いて記載されていたところ、破産会社の取締役森本和明から、右の約定では、破産会社の取得すべき手数料が殆どなくなるので別項を設けて欲しいとの要望により二社協定においては別の項として5項①、②が定められたこと(証人平木剛)を総合すると、破産会社の本件業務の対価は、次の算定方法により算出するのが相当である。
すなわち、入金額に0.35を乗じて本件業務の対価を求め、更にこれより4項②の運賃等を控除して本件業務の対価を算出する。
算式 入金額×0.35−4項②の運賃等=本件業務の対価……A
まず、入金額から、5項①、②に基づき優先的に差し引くべき倉庫料等を控除する。
算式 入金額−倉庫料等……B
破産会社が現実に受けるべき本件業務の対価は、BがAよりも大きいか、Aと等しい場合には、Aの満額であり、BがAよりも小さい場合には、Bである(但し、Bが〇以下の場合は〇)。
これと異なる原告の算出方法は、4項②に運賃等を本件業務の対価の中から賄う旨の定めがあることに照らして、また被告の算出方法は、4項①後段に、回収実現額とは、被告に入金のあった額をいう旨の定めがあること及び前記5項①、②の条項が設けられた経過に照らしていずれも採用できない。
そこで、右計算方法に基づき、平成六年六月三〇日までの破産会社の手数料を計算する。
二社協定に基づき、破産会社が本件商品を売却したことによる、右同日現在における右代金回収実現額は金九六〇六万一七五三円であることは当事者間に争いがなく、証拠(乙一)によれば、5項①、②の倉庫料等は三七一四万五九〇一円であり、4項②の運賃等は一一三六万一五六二円であることが認められる。
したがって、本件業務の対価は、二二二六万〇〇五二円となる。
算式 9606万1753円×0.35−1136万1562円=2226万0052円
そして右回収実現額から5項①、②の倉庫料等を控除して得られる五八九一万五八五二円は、右業務の対価より多額であるから、破産会社は、右本件業務の対価全額を請求し得る。
原告は、平成六年七月一日以降の本件業務の対価の支払を求めているところ、この分については、代金回収実現額についての立証がないので理由がない。
2 乙事件
(一) 請求原因1(当事者の地位、営業内容)、同2(四社協定の締結)は当事者間に争いがない。
(二) 証拠(甲A三、乙A一)によれば、四社協定に基づき、破産会社が本件乙商品の売却により平成六年六月末日までに回収した右商品売却代金額は金八九六九万三一八四円であり、右協定4項②には、破産会社の業務遂行のための商品納入運賃、徳島県所在の徳島物流センター倉庫での保管料、荷役料その他一切の費用は破産会社の負担とし、破産会社は4項①記載の対価の中から賄う旨の定めがあるところ、右商品の倉庫料は一四万七〇〇〇円、運賃が二二九万二六九〇円であることが認められる。
そこで右約定にしたがって破産会社の手数料を算出すると、八一〇万六八一九円となる。
算式 8969万3184円×0.35−(14万7000円+229万2690円)=2895万2924円
右金額に、四社協定4項①において当事者間に争いがない被告の負担割合0.28を乗ずると、被告が破産会社に支払うべき手数料は、八一〇万六八一九円となる。
算式 2895万2924円×0.28=810万6819円
二 甲事件の手形金返還について
1 請求原因1(当事者の地位、営業内容、和議申立、同取下、破産の申立、破産宣告)、同3(破産会社の約束手形金債務の負担と(1)、(2)の手形の裏書譲渡による弁済並びに右各手形の決済)は当事者間に争いがない。
2 本件において和議法一〇条の類推適用の可否について検討する。
(一) 和議法九条一項により和議開始後に和議が不成功に終わり、破産手続に移行して破産宣告のなされた、いわゆる牽連破産の場合には、破産手続における否認権の行使(七二条)、相殺禁止規定(一〇四条)等の適用に当たっては、同法一〇条により、和議開始申立をもって支払の停止又は破産申立とみなすべきところ、同法一〇条の趣旨は、右のような牽連破産の場合、和議開始の申立が破産原因の存在を要件としている(和議法一二条)ところから、右否認権の行使や相殺禁止規定等破産法上債権者平等の原則を貫くために設けられた制度を適用するについては、和議の申立を破産の申立と読み替えて、和議申立手続の介在により右の原則が損なわれることのないように配慮したところにあるものと解される。
このような右法条の趣旨に鑑みると、和議申立後同手続開始決定前に、右申立が取り下げられ、これに引き続いて破産の申立、破産宣告がなされた場合にも、和議手続から破産手続への移行が時間的に切迫していて関連性があるときには、和議法一〇条を類推適用するのが相当である。
(二) これを本件についてみると、証拠(甲八)に、前記争いのない事実によれば、破産会社は、平成六年一月二八日に和議申立をし、申立理由において、破産原因の存在について、平成五年一二月末現在で債務超過にあり、同年一月三一日支払期日の破産会社振出の約束手形につき支払停止を出すのは必定であり、同年二月一五日支払期日の手形についても決済の目途がなく銀行取引停止処分を受けることが確実で、支払不能の状態にある旨主張していること、破産会社は、同年七月六日右和議申立を取下げた上、同月八日破産申立をし、同月一三日破産宣告を受けていることが認められる。
したがって、本件においては、右和議手続と破産手続とは時間的に切迫し関連性を有していることが明らかであるから、和議法一〇条が類推適用され、原則として、和議申立後には、破産債権の支払は否認権行使の対象となり、また、破産債権をもってする、破産会社が右申立後に負担した債務との相殺は禁止されるといわなければならない。
ところで、被告は、破産会社の、(1)、(2)の手形裏書譲渡・その決済による四三二四万七六八五円の約束手形金債務の一部弁済が、二社協定に基づく別除権者である被告への弁済で、一般債権者を害する行為に当たらないと主張するので検討する。
なる程、証拠(甲一、証人森本和明、同平木剛)に弁論の全趣旨を総合すると、右の手形譲渡による弁済は、二社協定に基づき、破産会社振出の、平成六年一月一五日満期の約束手形四三二四万七六八五円についての延期手形である満期同年二月一四日の手形金債務に対する弁済としてなされたもので、被告の右手形債権は、別除権の被担保債権であることが認められる。
しかしながら、他方、本件和議申立の翌日の平成六年一月二八日、弁済禁止の保全処分決定が発令され(大阪地方裁判所平成六年モ第二五〇二三号)、右主文二項において、「申立人は、……破産の場合に別除権を行使することを得べき権利を有する者に対してその権利によって担保されている金銭債務を弁済する必要があるときは、右債務の存在及び緊急弁済を必要とする事由についてあらかじめ当裁判所及び和議管財人(和議管財人がおかれていないときは整理委員)の確認を得なければならない。」との決定がなされている(乙一六)。
ところが、証拠(甲六、証人森本)によれば、破産会社は、二社協定の締結に当たり、当時の整理委員に対し、意見を求めておらず、又右保全処分における確認も得ていないことが認められる。
しかも、証拠(甲四の一ないし四)に弁論の全趣旨を総合すると、被告は、破産会社に対して本件和議申立当時元本のみで二億二三二七万九六三一円の債権を有し、これに対する担保として根抵当権を有していたものの、この根抵当権はいずれも後順位に位置していて配当を受ける見込のない、担保価値の乏しいもので、また、前記譲渡担保も前記債権を十分に担保するには担保価値が不足していたこと、又二社協定は、被告の、本件商品を譲渡担保物件とする別除権行使のために締結され、右協定中の(3)の手形金債務の弁済に関する合意も右別除権行使に併行して、別除権者である被告のためになされたもので、和議会社である破産会社の通常の業務継続のためになされたものでないことが認められる。
右で認定説示したところによれば、破産会社の被告に対する(1)、(2)の手形譲渡による弁済は、別除権者に対する弁済ではあるものの、本件破産手続における一般債権者を害する行為に当たることが明らかであるから、否認権行使の対象となり、したがって、原告のした否認権の行使は有効である。
三 甲乙両事件における相殺の抗弁及び相殺禁止規定による無効の再抗弁の当否について
前記二で認定説示したところによれば、和議法九条の牽連破産と同視される本件においては、和議法一〇条の類推適用により、相殺禁止規定(同法一〇四条)の適用の関係では、本件和議申立が破産申立とみなされるところ、被告が受働債権として相殺を主張する甲乙両事件における破産会社の業務上の対価は、いずれも右破産申立後に被告が負担した債務であり、(1)、(2)の手形金返還債務は、破産申立後に破産管財人が否認権行使の結果被告が負担した債務であることは、前記一、二の認定説示により明らかである。
そして、被告が自働債権として主張する、(3)の手形金債権、立替金返還請求債権は、仮にそれらが主張のとおり存在するとしても、破産宣告前に生じたもので破産債権に当たることは、主張自体より窺われる。
したがって、甲事件相殺、乙事件相殺の各意思表示は、いずれも破産法一〇二条二号に該当し許されないといわなければならない。
被告は、これらの相殺が二社協定、四社協定の合意に基づくものであるから許される旨主張するところ、同条は強行規定で、これを排除する合意は無効である(最高裁判所昭和五二年一二月六日第三小法廷判決)から、この点に関する被告の主張は失当に帰する。
四 以上のとおり、原告の甲事件請求は、被告に対し、手数料金二二二六万〇〇五二円、手形金返還金二〇〇三万一三一六円の合計四二二九万一三六八円及びこれに対する甲事件訴状送達の日の翌日である平成六年一二月二八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、乙事件請求は、被告に対し、手数料八一〇万六八一九円及びこれに対する乙事件訴状送達の日の翌日である平成七年五月一一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるから認容し、その余の甲乙両事件請求は失当であるから棄却する。
なお、仮執行の宣言は相当でないのでこれを付さない。
(裁判官鎌田義勝)
別紙<省略>